暗号資産への投資の意義:グローバル市場との比較と分散投資の必要性
暗号資産(デジタルアセット)は近年、その市場規模と存在感を世界的に拡大させています。主要な暗号資産を中心に時価総額が急伸し、日本においても法規制の整備が進むなど、暗号資産を取り巻く環境は大きく変化しています 。本レポートでは、そのような暗号資産への投資について、
(1)グローバル市場との比較
(2)分散投資の観点
から考察します。国内外の市場動向や制度整備、機関投資家の動きを整理し、暗号資産をポートフォリオに組み込む意義を明らかにします。
グローバル市場における暗号資産投資の動向
世界の金融市場では、米国や欧州を中心に暗号資産への取り組みが加速しています。米国では、大手金融機関や資産運用会社がビットコインをはじめとする暗号資産を本格的に投資対象に組み入れ始めています。その象徴として、2024年には機関投資家によるビットコイン上場投資信託(ETF)の保有額が急増しました。例えば2024年第4四半期には、機関投資家のビットコイン現物ETF保有額が前四半期の3倍となる約387億ドル(約5.9兆円)に達したことがSEC提出資料で明らかになっています 。世界最大の資産運用会社ブラックロック社もビットコインETF(「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト」)を展開しており、同ファンドは1100を超える機関投資家が保有するなど、初年度のETFとして過去最高水準の導入となっています 。これらの動きは、大規模な機関マネーが暗号資産市場に流入しつつあることを示しています。
一方、欧州では規制面で先行しています。欧州連合(EU)は2023年に世界初の包括的な暗号資産規制枠組み「MiCA(暗号資産市場規制法)」を可決し、2024年末からの施行に向け進めています 。MiCAにより、暗号資産サービス業者への統一ライセンス制度やステーブルコイン発行体への規制が整備され、欧州域内で明確なルールの下で事業展開が可能になります。一方の米国では、証券取引委員会(SEC)による主要取引所への提訴など規制の不確実性も残りますが、上述の通り機関投資家の関心自体は高まり続けています。その他の地域でも、シンガポールや香港など金融センターが独自の受け入れ態勢を整え始めており、暗号資産のグローバルな導入機運は高まっています。
こうした環境下で、機関投資家の暗号資産に対する見方も世界的に変化しています。英国の暗号資産運用会社Nickel Digitalが実施した調査では、すでに暗号資産に投資している機関投資家・資産運用会社の約74%が「2024年に暗号資産への配分を増やす計画」と回答しました 。また、調査対象となった機関投資家全体の約87%が現在の暗号資産投資機会を「魅力的」と評価しており、約20%は「非常に魅力的」と感じています 。5年先を見据えるとこの傾向はさらに強まり、「魅力的」と捉える回答は92%(「非常に魅力的」が41%)に達しました 。注目すべきは、従来は保守的とみられていた政府系ファンドや年金基金なども含め、各国の機関投資家が短期・中期的に暗号資産への投資拡大を見込んでいる点です 。実際、同調査では政府系ファンドや年金基金の回答者の多くが暗号資産への割り当て増加の意向を示しました 。このように世界規模で機関マネーの参入が進む背景には、市場環境の成熟だけでなく、投資家側の認識転換があるといえます。米国の大手調査でも、2025年中に暗号資産投資を検討・実施する意向のある機関投資家が全体の8割超にのぼるとの報告があり、暗号資産はもはや一部の専門家だけのものではなく、主流のオルタナティブ資産として注目されていることが伺えます。
日本の機関投資家も、この世界的な流れの中で少しずつ姿勢を変えています。野村ホールディングス傘下の調査(国内機関投資家・ファミリーオフィス等対象)によれば、回答者の54%が「今後3年間で暗号資産に投資する意向がある」と答えており、暗号資産に対して前向きな国内機関も増えつつあります 。また同調査では62%が暗号資産を「分散投資の機会」として捉えており, 実際に投資する場合の望ましい配分比率は運用資産の2~5%程度と想定されていました 。この結果は、後述するポートフォリオ分散の文脈で暗号資産を捉える見方が日本でも広がっていることを示しています。加えて、日本国内でも暗号資産関連の制度整備が進展しています。既に暗号資産交換業者の登録制や投資家保護の仕組みが整えられている日本ですが、近年はトークンの扱いやステーブルコイン解禁など法整備がアップデートされ、市場参加者にとって投資環境が改善しつつあります 。こうした流れを受け、日本の機関投資家もグローバルな潮流を踏まえて暗号資産をポートフォリオに組み入れる検討を始める時期に来ていると考えられます。
暗号資産を組み入れる分散投資の効果
伝統的な資産運用において、分散投資はリスク管理とリターン最適化の要諦です。異なる値動きをする資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のボラティリティ(変動幅)を抑えつつリターン向上を目指す手法ですが、暗号資産はその新しい候補となり得ます。ビットコインを筆頭とする暗号資産は、株式や債券、不動産など従来資産と価格の動きが必ずしも連動しない低相関の特徴を持つと指摘されています。実際、過去の統計ではビットコインと株式市場との相関係数が長期的に見ると低水準に留まるケースも多く、特に地政学リスクや金融政策の局面で他資産と異なる値動きを示すことがあります。こうした非相関資産をポートフォリオに加えることは、特定市場の下落局面で損失を緩和し、長期的なリスク調整後リターン(シャープレシオ)の改善につながる可能性があります。
暗号資産を分散投資に活用する意義は、国内外の投資家の意識にも表れています。前述の野村の調査では、過半数の機関投資家が暗号資産をポートフォリオの分散化に資する資産と見做しており 、典型的な配分戦略としては運用資産全体の数パーセントを割り当てる例が想定されています 。例えば、総資産の2~5%程度をビットコインやイーサリアムなどの暗号資産に充て、残りを株式・債券など従来資産に配分することで、ポートフォリオ全体のリスク・リターン特性を改善できる可能性があります。暗号資産は価格変動が大きい反面、小規模な配分であれば他の資産への影響を限定しつつ、将来の高成長による恩恵を享受できるという非対称性(アップサイドポテンシャル)も魅力です。
もちろん、暗号資産を組み入れる際には注意点も存在します。第一に、その高いボラティリティ(価格変動の大きさ)ゆえに、短期的にはポートフォリオの評価額が大きく変動し得る点です。また、暗号資産特有のカウンターパーティリスク(取引相手先リスク)や技術的な管理難易度も考慮が必要です 。加えて、各国の規制整備状況や市場インフラ(取引所やカストディサービスなど)の成熟度にも差があるため、流動性リスクや規制リスクも見極めねばなりません。日本においても、機関投資家からは「社内体制の未整備」や「法規制の不透明さ」が課題として挙げられており 、安心して投資できる環境作りが進められている段階です。しかし、これらの課題に対しては市場の成熟化に伴う解決が期待可能です。実際、投資家がアクセスしやすい金融商品として、ETFや投資信託、ステーキング商品などの開発が各国で進んでおり、順次提供が拡充されています 。これらの商品は信頼性の高い事業者による管理やカストディを通じてカウンターパーティリスクを低減し、投資家にとって分かりやすい形で暗号資産へのエクスポージャーを提供するものです。たとえば米国では先述のようにETFを通じた機関マネー流入が顕著であり、日本においても暗号資産関連の投資信託が登場し始めています。市場インフラの整備が進めば、暗号資産は他のオルタナティブ資産と同様に成熟した分散投資ツールとして機能することが期待されます。
暗号資産をポートフォリオに組み込む意義
暗号資産への投資は、グローバルな視点で見るともはや無視できない潮流となっています。米欧の大手機関投資家が参入を本格化させ、市場には巨額の資金が流入し始めています。日本においても規制整備の進展とともに機関投資家の関心が高まりつつあり、暗号資産は新たな資産クラスとしてポートフォリオ戦略に組み入れる意義を増しています。
最大の意義は、暗号資産が成長ポテンシャルと分散効果を併せ持つ点にあります。一方で中長期的な高成長産業(ブロックチェーン技術革命)の果実を享受しつつ、他方で従来資産と異なる値動きによるリスク低減効果を期待できるのは、暗号資産ならではのメリットです。実際、調査でも機関投資家の半数超が暗号資産を分散投資の観点から前向きに捉え、適切な割合での組み入れを検討しています 。オルタナティブ投資先としての地位が向上するにつれ、暗号資産は不動産やコモディティ(金など)と並ぶ選択肢として定着しつつあります。
もっとも、暗号資産は決してリスクのない万能薬ではないことにも留意が必要です。市場価格の変動要因には技術革新のスピードや規制動向、マクロ経済環境など不確実性が多分に含まれます。ただし、これは未成熟な市場から成熟市場へ移行する過程で避けられない側面とも言えます。重要なのは、そのリスクとリターンの特性を正しく理解し、適切な規模で慎重にポートフォリオに組み入れる戦略を取ることです。グローバルな機関投資家が相次いで暗号資産市場に参入し、規制当局も制度の枠組みを整備しつつある現在、暗号資産は従来の金融資産との相補効果を発揮しうる存在となっています。
暗号資産への投資を検討することは、単に新興の高収益機会を追求するだけでなく、長期的な資産配分の多様化と安定性向上という観点からも意味を持ちます。グローバル市場と歩調を合わせつつある今、信頼性の高い情報と適切な助言に基づき、暗号資産をポートフォリオ戦略の中に位置づけることは、投資家にとって次世代の投資フロンティアを切り拓く一助となるでしょう。
本資料は暗号資産への投資に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や金融商品の売買の勧誘や推奨を目的とするものではありません。また、本資料に含まれる見解や予測、過去の実績に関する記載は将来の成果やパフォーマンスを保証するものではありません。暗号資産市場の状況は将来にわたり変動し得るため、本資料の内容は予告なく変更される可能性があります。 本資料に記載された情報は信頼できると判断した情報源に基づいて作成しておりますが、その正確性・完全性について当社が保証するものではありません。情報の解釈や適用にあたっては最新の状況をご確認いただく必要があります。本資料はあくまで参考資料であり、本資料の情報に基づいて行われたいかなる投資行動の結果についても、当社および本資料の作成者は一切の責任を負いかねます。すべての投資にはリスクが伴うことをご理解いただき、最終的な投資判断はご自身の判断と責任で行ってくださいますようお願いいたします。